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第一章 津波の概観

目次

  1. 第一節  津波の多い地帯
  2. 第二節  津波の発生
  3. 第三節  地震
  4. 第四節  津波の襲来
  5. 第五節  津波の予知
  6. 第六節  津波の防災

第一節  津波の多い地帯

三陸沿岸は津波の常襲地帯のように言われるが、世界の津波を米人のヘックと言う人がまとめたリストによると、一九四五年までの分で三七一回あり、その中日本近海に生じたものが五六回で約二〇%になっている。此の調査は古いものは記録が乏しいので実際の津波の数はもっと多いものであろうが、日本の分にしても五六回の中一五〇〇年以降の分が四七回を示している。

とに角日本近海は津波が多いことは確かであり、その日本近海の中でも我々の住む三陸沿岸、北海道沿岸は他地区に比較して、巻末の津波年表にもそれが表われている。

津波という名称であるが、明治二十九年の大津波は三陸海嘯というように呼ばれて居り、古い頃には海嘯が一般的な名称のようであるが、海嘯とは中華民国の南部海岸の銭塘江の河口を上ってゆく響きを伴なう激しい潮汐の状態をいうものであって、三陸の津波のようなものは海嘯と異なるものであるとの立場から、現在では津波が一般的な名称とされて、今ではこの「つなみ」が世界語として使用されている。

津波は、津の波で、津は「ふなつき」とか、「みなと」の意味であろうが、其の津に寄せる波の事というわけで、人間にかかわりの深い言葉である。

当地方では、この津波の外にヨダという名称があって、このヨダは地震を伴わない弱い津波のことで、日本近海でなく遙かに遠い外国等で発生した津波が押し寄せて来たものに名付けたものらしく、ヨダという語は

  • 弱いことをいう。茨城方面
  • 潮流の為に水面に出来るうねりをいう。静岡方面
  • 潮水の急に満ちたり干たりする流れのことをいう。三重方面

と、方言として用いられるようで、随ってヨダは古い日本語のおもかげを津波に残して当地方に生きているということである。

理科年表(56年度版)
規模 津波の高さ 被害程度
〔-1〕 波高50cm以下 無被害.
〔0〕 波高1m前後 ごくわずかの被害がある.
〔1〕 〃2〃 海岸の家屋を損傷し船艇をさらう程度.
〔2〕 〃4~6m 家屋や人命の損失がある.
〔3〕 〃10~20m 400km以上の海岸線に顕著な被害がある.
〔4〕 最大波高30m以上 500km以上の海岸線に顕著な被害がある.

第二節  津波の発生

津波の発生原因として、海底火山或いは暴風等が原因となるものもあるが、三陸沿岸に襲来する津波はほとんどが海底地震によって生ずるものである。

明治二十九年の大津波にしても、又昭和八年のそれにしても、三陸沖の海底地震が原因で起きた津波であって、地震が起きた場合その地震によって、震央を中心にして、一〇〇キロないし数百キロの範囲の海底が隆起したり或いは陥没したりしてその海底の地殼の変動が海面に凹凸を起こし、凹凸による波が四方にひろがって津波となるもので、その際の地殼の隆起陥没の高さが、数メートルになるか一〇メートル等になるかによって海水の塊が持ち上り、又は落下する状態に大小が出来るわけで、その大小によって津波の規模がきまることになる。

津波の規模は理科年表によると次ぎのように区分されている。

第三節  地震

地震は地殼に巨大なエネルギーが蓄積されそのエネルギーによって生じたひずみが、極限に達した時に破壊が起こる現象であるとされてきたが、これについて三陸沖の地震の原因は、太平洋プレートの動きによるものであるというプレート説が、最近言われるようになって来た。

その説によると、地球の表面は厚さ約一〇〇キロメートルの大小十ケ程のプレートで覆われている。プレートはある地点の海底山脈より刻々にわき出して左右にゆっくりしたスピードで動き、わき出した直後はやわらかであるがすぐに固まって一枚岩のようになり徐々に動いてゆく。この一枚岩のようなプレートが他の同じようなプレートとぶつかって押し合ったり、一方のプレートが他のプレートの下にもぐり込んだりし、もぐり込むプレートによって相手のプレートは引きずりこまれて徐々に地殼はひずみこんでいくが、ひずみがある限度に達すると、それに耐えきれなくなって、引きずり込まれたプレートははね返る、これが地震であるという。

三陸の大地震は、プレート説によれば、太平洋の海底からわき出した太平洋プレートが西の方に動いて、日本列島の外側にある日本海溝の東側から、日本やアジア大陸を乗せているアジアプレートの下にもぐりこもうとし、それに対し引ずれ込まれているアジアプレートがある限界ではね返るために、変動が起きて地震になったものと考えられている。新しいところでは、一九七八年六月の宮城県沖地震(M7・4)もそれであると考えられ、明治二十九年、昭和八年の津波を伴なった地震もそのようにして発生したものと考えられる。随って太平洋プレートがアジアプレートの下にもぐり込む動きが続く限り、将来にわたって大小の差はあれ、いつかは地震津波が発生することになる。

最近日本として地震で大きく取上げられている東海大地震は、フィリピンプレートがアジアプレートの下に駿河湾でもぐり込んで、土地の水準に変化が見られて来たので、あまり遠くない時に大きな地震が発生し、東海地方に災害が起る憂いがあるとて、関係の各県では災害対策に力を入れている。

津波の大小は結局津波を起す海底地震の大きさによって左右されるわけであるが、地震の規模を気象庁では震度で表し、震度0から震度7までの八階級に分けて、各階級に簡単な説明をつけているが、最近東海地震への関心の高まりであろうか。東京都ではややくわしく解説しているので次にそれを掲げる。

震度階級表
震度階 人への影響からみたもの
0 無感 人体に感じない。地震計で知る。
1 微震 静座、横臥している人で敏感な人が感ずる。
2 軽震 静止している多くの人が感ずる。動いている人は無感。
3 弱震 屋内のほとんど、屋外のかなりの人、歩行中の少数が感じる。すわっている人で立ち上る人もいる。眠っている人は目をさます。建物がゆれ、天井板がきしむ。
4 中震 歩いている人のすべてが感じる。かなりの人がおどろく、屋外に逃げ出す人もいる。老朽家屋はまれ破壊、かなりゆれる。
5 強震 ほとんどの人が恐怖を感ずる。直立困難で物につかまらないと歩けない。階段は下りられない。老朽家屋は破壊する。土台のずれる家が出る。施工の悪い鉄筋建物は鉄筋が露出する。運転手はハンドルをとられる。
6 烈震 まわりの景色がぐるぐるまわるように見える。ほとんどの人が生命の危険を感ずる。はってしか歩けない。屋根の重い家は倒れる。線路で曲るものもある。自動車はおどり出す。
7 激震 山くずれ、地割れがおきる。家の破壊が著しい。鉄筋の悪いものはくずれる。

以上の震度階級は、ある土地で感ずる地震の強さであって、同じ地震でも震央から等距離であっても、地盤の強弱によってその階級に違いが出てくる。

これに対して、地震そのものの大きさを表すものとしてマグニチュードというのがある。マグニチュードは、一〇〇キロメートルの所に置かれたある標準地震計が記録した最大震幅をミクロンで読みとりそれを実用対数で表したものであるという。マグニチュードが地震の規模を表すものとして使用されたウット・アンダーソン式地震計は現在は使用されないが、それが使用されていたならこれ位の震幅を記録したであろうという値を換算してマグニチュードで規模を表すといわれ、また実際問題としていつも一〇〇キロメートルの距離に地震計があるわけではないが、ある地震計がある震央からのある距離で記録した最大震幅から、一〇〇キロメートルの所を想定してマグニチュードがきめられるもので、更に大昔の地震についても、古文書から震央距離一〇〇キロメートルの所を推定することにより、その地震のマグニチュードが定められている。

地震の大きさによる分類(マグニチュード)

極微小地震――M<1
微小地震――1≦M<3
小地震――3≦M<5
中地震――5≦M<7
大地震――7≦M

第四節  津波の襲来

三陸沖の海底に地震が生じた場合の津波は沿岸に押寄せるまでの時間は、震央から海岸までの距離によってそれぞれ違うわけである。津波の速さは四〇〇メートルの深さでは約二〇〇メートルと言うが、海の深さによってその速さは異り、浅くなるに随って速さがおそくなるとのことで、三好氏の波、津波によれば秒速で次のようである。

海の深さによる津波の速さの表
深さ(m) 速さ(M)
二〇 一四・〇
二〇〇 四四・三
五〇〇 七〇・〇
一、〇〇〇 九〇・〇
二、〇〇〇 一四〇・〇
四、〇〇〇 一九八・〇

三陸沿岸を襲う津波の多くは、日本海溝の深さ三〇〇〇メートル前後の斜面で生ずる地震によって起るので、その地点からでは地震後約二十分前後で波が海岸に達する事になるが、震央での位置が遠くなれば時間はそれよりかかる事になる。

津波は外洋でよく航行中或は操業中の船では気付かなかったという例がよくあるが、外洋では波の高さに対してその波長が長いので波の高まりが感じられないという事であって、波が岸に近ずくに随い海が浅くなるので、波の速さは減じて波長は短くなり波高は増してくる。三陸海岸はリアス式海岸で岬や入江が多く津波の寄せ方も複雑で旦強くU字型やY字型の湾の奥が殊に強く、また岬の先端から少しつけ根に下がった所でも強くなるという。

この点からすれば山田湾の巾着型、船越湾のU字型、小谷鳥湾の開口型などは波が高く被害が多いことになる。ただ昭和三十五年のチリ地震津波は、当地方でいうヨダの大きいもので、これは南米のチリ沖から時速七〇〇キロメートル余の速さで一昼夜近くかかり、三陸沿岸に達したものであるが、その波の被害は三陸沖地震津波とは違った影響を山田湾に与えている。なお海岸に於ける津波の高さについては、測り方でいろいろ違いがあるが、一般的に岸に打ち寄せた大波の高さ、その後の調査で海岸の地形に残された波痕から測られたものが津波の高さとされるが、この外検潮儀による海面の高さを表しているものや津波の打ち上げられた最も遠い地点の海面からの高さなどがあるようである。

第五節  津波の予知

津波の予知は出来るか、それが出来ると大変好都合であるわけであるが、地震津波の場合は地震によって津波が生ずるのであるから先ず地震が予知出来るかどうかにかかってくる。

三陸沖に発生する地震は、太平洋プレートの運動による地殼のひずみが限界に達して起るものと考えられているが、そのひずみは三陸沖の深海の海底であるので、どのようなひずみの状態であるかの調査が困難である。

地震学者によれば、海底に数多くの地震計を備付けてその動きを読みとれば、大地震の発生はある程度予知出来るというが、費用の点で実現は程遠い先の事になる。最近よく話題になる東海地震の発生については、駿河湾を中心とする地震の予知のことで、伊豆半島や駿河湾岸の地形の変化を測ることによってそれが出来ると考えられ、各地に計器が設置されているようである。

民間に於いては、津波の直前或いは数日前に井戸水の水位に変化が見られたとか、井戸水が濁ったり、また涸れたというようなことが伝えられており、更に異常にある種の魚が大漁であった等が話されている。ただ多く言われることは、地震の後に潮水が一たん引いてから大きな波が押し寄せてくるので、先ず海の水の状態を見て津波を確めるものだとの事であるが、これは前兆ではなく津波そのものである。

結局津波の予知は地震の予知ということになり、津波を伴なうような破壊の大きな地震がいつ起るかにかかってくるが、大きな地震の前には小さな地震が頻発するということなので、我々はそれに頼るしかない状態である。然し実際に津波のおそれのある地震が起きた場合には、本州から六〇〇キロメートル以遠の地震については気象庁が日本全国に津波予報を出し、三陸沿岸海域については東北中枢の仙台気象台が、地震後二〇分以内に予報を発令することになっている。

津波の予報は次の様式である。

○津波予報

津波予報解説の表
予報文 解説
ツナミナシ つなみ襲来のおそれはありません。
ツナミオソレ つなみが予想されるが、つなみの高さが予想出来ません。
ヨワイツナミ 小さなつなみが予想される。つなみの高さは、高いところでは約2メートルに達する見込み、とくにつなみの大きくなり易すい所では警戒を要します。その他多くの所では数十センチメートル程度の見込み
オオツナミ 大つなみが来襲し、大きな災害が引きおこされるおそれあり、予想されるつなみの高さは高いところで約3メートル以上に達する見込みで、今までにつなみを受けた所では厳重な警戒を要します。その他の所でも1メートル位に達する見込みです。
ツナミ解除 つなみの危険はなくなりました。

第六節  津波の防災

(1)家屋や人命に対しての防災では、津波の及ばない高台に住むことが第一であるが、明治二十九年の津波後被害の甚しかった船越地区では集団で現在の高台に低地から移転し、また昭和八年の津波後田之浜地区でも高台に移転したが、これは最もよい防災処置である。
しかし、津波が去って数十年も経過すると移住者も便利な海岸の低地に戻ってしまう傾向にあり問題をかかえている。

(2)堤防。津波の時海水を防ぐ為に海岸に防潮堤を築くことが行なわれている。この事は安政三年の津波後、和歌山県の湯浅湾の一村の浜口儀兵衛が自分の住む広村をその後の津波から守るため、高さ二間半、長さ三七〇間の堤防を築いたことが始まりで、三陸各地に大堤防が作られている。田老町の堤防は別にして、山田町に於ける堤防はその高さが、果して大きな津波を防げるかという疑問があるといわれている。防潮堤は確かに効果があるであろうが、どの津波にも安心して頼れるかという問題と、防潮堤を越えた海水が濁水のたまりとなるので、それに対する排水の処置が考えられなければならない問題がある。
防潮堤にはこの外海岸の前面に構築されるものがあるが、これは養殖漁業との関係でいくらか問題があるようで、湾口の狭い湾では殊に影響が大きいようである。

(3)防潮林。現在船越海岸、浦の浜には防潮林として黒松が植えられているが、津波に強いものを街路樹として海岸通りに植えることも津波を弱める意味で必要といわれている。

(4)建築物。海岸線の近くには堅固な鉄筋コンクリートの建物を建てている町もあるそうで、津波をやわらげることをねらったよい例である。

(5)その他。昭和八年の津波の際に、流木が家屋の破壊を大きくした事もあって、所によっては木材類を海岸でなく小高い土地に貯木するよう措置している町もあるようである。

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